技と心意気に惚れた!匠の曳家(ひきや)、岡本直也親方

皆さん、曳家(ひきや)って聞いたことありますか?
建築物を解体せずに別の場所へ移動する場合に活用される建築工法のこと。
恥ずかしながら、私は親方にお会いするまで曳家というものを知らなかった。
しかしながら、知れば知るほど、その技術は素晴らしい!
素人の私が説明するのもおこがましいが、その仕事内容を簡単に図解してみよう。
建物の床下にもぐる
建物ごとそのまんま持ち揚げる(土台揚げ)
そして、レールを敷く
あとは、ひっぱる(曳く)
さらにひっぱる(曳く)
曳家という建築工法をご存じないかた向けに、随分と簡単化して紹介してしまいましたが、実はこの作業工程は建物を少しも損傷させないように全てミリ単位でおこなっている、非常に熟練の技が必要となる作業なのだ。
いかがでしょうか?こんな技術が世の中にあったとは!
さらに凄いのは、曳家岡本は平時は文化財や古民家の構造からの修復を手掛けているが、この曳家ならではの技術は地震等(ex.2011年の東日本大震災)の災害発生時には、傾いた住宅を水平にして直すことに非常に役立ち、当時の浦安市長から直接要請を受け、多くの沈下修正(ちんかしゅうせい)工事を成し遂げられたのである。
沈下修正については、私の説明よりも下記の親方の著書に詳しいので割愛させて頂く。
この度、せっかくの機会を頂戴したので、親方にお話しを伺った。
家が傾いてしまった場合、生活するにおいて、やはり影響はあるのでしょうか?
不安をあおって営業するような業者のようにとられかねないので、必ずそうなるとは言いませんが、めまい、のぼせ、不眠症などを訴えられるケースは確かにあります。場合によっては、脳梗塞まで引き起こしてしまうリスクの中に置かれてしまいます。
傾きに関して言えば、1mに対して1cmの傾きがあることを「1000分の10」と表記します。建物の傾きに対する許容範囲は「1000分の5」。つまり1mに対して5mmまでの傾斜なら我慢できるだろうということなのですが、東日本大震災ではこれが「1000分の20」程度まで傾いたご自宅もありました。
家の傾きを直すということに関して、親方と他の業者との違いは、どういうところにあるのでしょうか?
曳家は、業者によって使う資材や技術のばらつきが激しく、当初の修復費用の見積り金額に追加料金が発生してしまったとたたかれるケースがあります。そういった曳家は少々家を傷めても、「曳家だからこんなもの」と釈明してしまう。
ですが、私に言わせれば、そうした粗悪な工事をするのは「本物の曳家」ではありません。自分たちは、こまやかな細工をする分、家は傷みません。
具体的にはどのように違うのでしょうか?
例えば乱暴な業者は家によっては、数少ない6台ほどのジャッキを使い回して家を揚げたり、少し揚げては楔を打ち込んでジャッキをいったん外し、次へ持っていくこを繰り返します。さらには手間を惜しみますから1か所1cm~1.5cmずつ揚げていくのです。床下を巡回する手間を割愛したいわけです。
われわれは、数多くのジャッキを使い、手間を惜しまず、当たり前のように1回に3mm~5mm程度ずつしか揚げませんし、必要な台数のジャッキをすべて掛けて、こまめに上げていくことができます。
つまり、われわれは床下を「面」で考えているのですが、乱暴な業者は「点」で捉えているために、壁や土台を傷めてしまうのです。
信頼できる業者を見つけるには、どんな点に注意すれば良いのでしょうか?
まず、十分な工具を持っている業者を選ぶことですね。建物の基礎が大きく折れていたり、割れていたりするお宅の場合、相当数のジャッキや枕木を保有していないと、まともな工事ができません。例えばジャッキですが、灰色の高さ27cm程度のジャーナルジャッキを40台以上使っているなら、おそらくは「本物の曳家」です。
道具以外でも、ジャッキの掛け方を見れば、きちんとした親方の元で修業をしたかどうかが分かります。ジャッキの台座になる角材を幅広くとって、専用のジャッキ皿にのせている方は本物です。
何故、そうまでして目に見えない部分にこだわられていらっしゃるのですか?
お施主さんは、我々を信頼して仕事の依頼をされます。床下の見えない部分にどれだけ時間と苦労をかけるか?はその信頼にこたえるためにもっとも重要だと思っています。そして、誠意のある職人であればいただいた金額に対しての技術を惜しみなく使います。
親方の今後のお考えをお聞かせ頂けますか?
もうしばらくは現役でこの仕事を続けますが、今後は、この伝統工法を未来へ継承するために、是非とも私の後継者を育成したいですね!最近では、そのための支援をして頂ける自治体や企業への支援依頼の広報活動も続けています。
こちらが緊張しないように気をつかわれ、終始優しく、和やか雰囲気でお話しされていらっしゃいましたが、お仕事内容のご質問を向けた際の、鋭い眼光と心意気は、さすが熟練の親方でした。
私と志が同じ方がいらっしゃいましたら、是非お会いしてお話しをしたいです。by曳家岡本 岡本直也親方
住所:東京都江東区大島2-10-5 ワコーレ錦糸町Ⅱ 603号
電話:090-5143-0607
https://www.hikiyaokamoto.com/
親方は、建設業者をはじめ協力業者を広く募っていらっしゃいます。
また、素晴らしい伝統工法を未来へ継承するために、後継者育成へご支援頂ける自治体・企業様からのお声がけもお待ちしております。